「海事代理士法第十条に基づく新たな事務所の設置の登録と行政書士法第八条1項2項の関係についての検討」

海事代理士

※本検討記事は、関係法令等を網羅的に検討したものではなく、あくまで筆者個人の知的好奇心に基づく私見です。

 海事代理士法(新たな事務所の設置の登録)第十条には次のような規定が置かれている。

 海事代理士法第十条「海事代理士が二以上の事務所を設置しようとするときは、国土交通省令で定める手続に従い、その主たる事務所の所在地を管轄する地方運輸局長の許可を受け、かつ、新たに事務所を設置しようとする場所を管轄する地方運輸局長の備え付ける海事代理士名簿に前条第一項第一号から第三号までに掲げる事項及び同項の規定により登録を受けた印章について登録を受けなければならない。」

 すなわち、省令で定める手続きに従い、主たる事務所所在地の管轄地方運輸局長の許可を受け、新設する事務所所在地の海事代理士名簿に登録を受ければ複数事務所の開設を明文規定で認めている。

 また、同条第2項において「地方運輸局長は、あらたな事務所の設置により当該海事代理士が、みずから誠実且つ敏速にその業務を処理することができなくなるおそれがあると認めるときは、前項の許可をしてはならない。」と規定しており、当該海事代理士が、みずから誠実且つ敏速にその業務を処理することができる限りにおいては許可をしなければならないと解釈できる。

 一方で、行政書士法第八条1項では「行政書士(行政書士の使用人である行政書士又は行政書士法人の社員若しくは使用人である行政書士(第三項において「使用人である行政書士等」という。)を除く。次項、次条、第十条の二及び第十一条において同じ。)は、その業務を行うための事務所を設けなければならない。」と規定し、業務を行うための事務所の設置が法定されており、同条第2項において「行政書士は、前項の事務所を二以上設けてはならない。」と複数事務所の設置を明文で禁じている。


 以上を踏まえ、「個人で登録を受けた海事代理士兼行政書士が海事代理士法第十条に基づく複数事務所の設置が果たして適法に認められるかについて検討したい。」

 行政書士会の、ある単位会の資料に、「事務所での常駐」定義について。という文書が確認できる。そこには、常駐とは「出張などの場合を除き、行政書士業務を反復継続して行う場所と見ることができる程度の執務状態を指し、依頼者への対応が充分にとれ、行政書士会からの連絡が遅滞なく伝わり、使用人行政書士又は補助者等への指導・監督が充分に行える状態にあること。」と定義づけています。

 一方で、海事代理士法第十条2項には「当該海事代理士が、みずから誠実且つ敏速にその業務を処理することができなくなるおそれがあると認めるとき」には新たな事務所の設置が許可されません。この、「みずから誠実且つ敏速にその業務を処理することができな」いが常駐とイコールであるならば、そもそも海事代理士法第十条1項で新たな事務所の設置は認められないものと考えます。すなわち、海事代理士法第十条に基づき設置した新たな事務所においては常駐義務までは課されていないと解釈できます。

 したがって、海事代理士法第十条に基づいて開設した事務所が、行政書士業務を反復継続して行う場所と見ることができる程度の執務状態等にあれば、これは行政書士法第八条1項2項に抵触するでしょう。

 では、同増設事務所に資料、文献、事務機器、帳簿、報酬額表の掲示、職印など行政書士業務を行う上で必要なものが置かれておらず、あくまで海事代理士業務を行う上で必要なものしか設置されていないというような場合にまで直ちに行政書士法第八条1項2項に抵触するとまでは言えないと考えます。

 では、相談対応を行った場合はどうか。行政書士会の考えるところの「常駐の定義」として、「依頼者への対応が充分にとれ、」という文言がある。行政書士法第一条の三1項4号では、「行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。」が行政書士の業務として法定されていますので、海事代理士法第十条に基づいて開設した事務所が、もっぱら行政書士としての相談業務を行うことを目的として開設されたものであれば行政書士法第八条1項2項に抵触するでしょう。

 偶発的な相談対応はどうか。行政書士業務を行う上で、遠方に出張し、その出張先で相談に応じることがあるかと思います。この場合、顧客の事業所、喫茶店、貸会議室などで相談対応をしますが、これらはいずれも法令上なんら問題はないでしょう。では、この相談対応を行うのが顧客の事業所、喫茶店、貸会議室などではなく、海事代理士法第十条に基づいて開設した事務所であった場合はどうでしょう。相談者が行政書士の事務所からは遠方にお住まいで、海事代理士法第十条に基づいて開設した事務所の近隣であった場合、同増設事務所で相談対応をすることと、その近隣で貸会議室を借りて相談対応することとを明確に区別することはできません。

 また、偶然そのような状況にあっただけで、もっぱら行政書士としての相談業務を行うことを目的として海事代理士法第十条に基づく新たな事務所を開設したとまでは言えません。したがって、直ちに行政書士法第八条1項2項に抵触するとまでは言えないものと考えます。

 しかしながら、これが複数回にわたり行われ、常態化していると、もっぱら行政書士としての相談業務を行うことを目的として開設したものと判断される可能性があると考えます。  

 あくまで私見ではあるが、海事代理士業務と行政書士業務を完全に区分し、上記のような事項に十分留意する限りにおいては、行政書士である海事代理士が海事代理士法第十条に基づき新たな事務所を開設することそれ自体は適法に行えるものと考えるが、同一人物である個人登録の海事代理士兼行政書士が、果たして完全にこれらを区分して業務を行うことができるかという問題は残り、結果として行政書士法第八条1項2項に抵触し処分の対象となる可能性を排除できない。最終的には処分権者の判断になるかと思いますので、所属行政書士会等への事前の相談などは十分に行うべきでしょう。

 もしこの記事をご覧になった方で、見解を伺える先生方がみえましたら、ぜひ、いつかご教授いただける機会があれば幸いです。

 

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